柿の種を拾い集めるように

料理と音楽、たまに科学

技巧と感動は一致せず…B,S&Tと天才アル・クーパー/父はかく語りき

~伊勢太郎の父はかく語りきvol.3~

 

 

こんにちはmake me smileです。

 

その昔、私が音楽(洋楽)を聞き始めた頃、音楽は名前を付けてジャンル分けされ、主に音楽雑誌やレコードの帯などに、分かりやすい「謳い文句」として書かれていました

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よく目に飛び込んできたものは、まず国別に分け、アメリカン・ロック、ブリティッシュ、ジャーマン、ダッチ(オランダ)…。(以下、地域別、演奏スタイル別の各ジャンルには、ほぼ言葉のお尻に「ロック」とか「サウンド」と付けて考えてください。例えば「フィラデルフィア・サウンド」とか「グラム・ロック」「ジャズ、ロック」とか)

 

主にサウンドの特色を地域名で表現し、ベイエリア、フィラデルフィア、ウエストコースト、イーストコースト、サザン、カンタベリー…。

 

演奏スタイルや表現方法に特長があれば、ハード・ロック、メタル、グラム、プログレッシヴ、フォーク、ジャズ、ラテン、アート、バムルガム、ポップ、それから意味はよく分かりませんが「ニュー・ロック」なんてものもありました。

 

 

そして私の若い頃、音楽選びの基準となった「シカゴ」が所属?のジャンルがブラス・ロックです。

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「ブラス・ロック」や「シカゴ」については、私なりの独自見解があります。

たびたびネタとして上がると思いますので、宜しくお願い致します。

 

さて、これからお話するのは「ブラス・ロック」の草分け的存在であった

「ブラッド,スウェット&ティアーズ」の創始者

『アル・クーパー』についてです。

 

『アル・クーパーは、ブラッド,スウェット&ティアーズ(以下B,S&T)の創始者であり、ブラスロック・スタイルを実現させようとしたアーティスト。常に新しいサウンドを求めたオルガニストであり、セッション・マンである。1枚目ですぐ脱退。その後はソロ活動云々…』

 

ブラス・ロック・ファンとしては、まずこの程度の最低知識を持ってアル・クーパーを語る訳です。

 

「B,S&Tの名作であるセカンドアルバム『血と汗と涙』は、とりあえず買って聴くことがシカゴ・ファン、ブラス・ロック・ファンの義務であり、その音楽性の違いを語ることが出来て初めてファンを名乗ることが許される」であるかのように私は考えていました。

 

私が中学生の時、シカゴの次に買ったのが、この「B,S&T:血と汗と涙」です。

 

評判通り「血と汗と涙」(アル・クーパーは既に脱退)からは、若さや荒削りさなど微塵も感じられません。大変に完成度の高い成熟感漂うアルバムでした。

 

 

シカゴが「青年」なら

B,S&Tは「大人」の感じがしました。

 

 

メンバーも「〇〇で〇〇をやっていた有名な○○」みたいな凄腕ミュージシャンが集まったグループです。

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プロデューサーは言わずと知れたシカゴの育ての親、「8人目のシカゴ」と言われたジェイムス・W・ガルシオ

 

ガルシオはファースト・アルバムのプロデュースは断ったそうですが、この2作目「血と汗と涙」については引き受けたそうです。

 

一説にはシカゴのデビュー・アルバム制作がプロデュースの条件だったとか…。

このアルバムは1969年、グラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞しています。

 

 

しかし「セカンドがイイ」となれば

気になるのは「ファースト・アルバム

 

暫く時は空きましたが、ようやくファースト・アルバムの子どもたちは人類の父であるを買いました。

 

一部ファンの間では、このアルバムの評価が高かったようですが、当時の私にとっては非常に残念な結果、さほどとは思えませんでした。

いかに「アル・クーパー」が実験的に作ったバンドであろうが、既に比べるもの(セカンド)がある以上、比較されることはどうしても免れません。聴き手としては完全に比べてしまいます。

 

『ボーカルが弱い。ブラスが大人しい。ブラス・アレンジがどうもな。録音状態がモノラル的。もう少し各パートの音を拾いたい…』など当時は中学生にも関わらず、生意気な感想を持ったものでした。

 

ワタシ的には「実験的な音楽を聴かされてもなあ……やはりB,S&Tはセカンドからだな」と、その後も3枚目、4枚目、5枚目と買いますが、ファーストは完全に「お蔵入り」です。

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それから時は流れて、何年か経った頃の事でした。

FMラジオから流れてきた音楽を聴いて衝撃。

 

ガーーン!!

カッコイイ!!!

 

いきなり分厚いブラス群のイントロ。

 

オー、来るぞ!!キタキタ、キタ~!!

 

ところが歌に入ると

決して上手いとは言えないヘナヘナ感満載の歌声

 

その後も吠えるブラス群と線の弱い歌声が微妙に、いや、絶妙に絡んで曲は続きます。

 

 

曲名は「ミッシング・ユー

歌は、そうです、「アル・クーパー」です。

ソロアルバム『倒錯の世界』の中の曲でした。

 

 

その吠えるブラス群の正体は、私の大好きなあの、「タワー・オブ・パワー」。

納得…。

 

楽曲もアレンジも素晴らしく、もう少し突っ込んで聞いてみたいと思いました。

 

結局、このアルバム『倒錯の世界』を買い求めましたが、「やはりこの人はブラス・ロックが好きだったんだ。こういう曲をやりたかったんだ」と当時はほんの少しですが分かったような気がしました。 

 

『倒錯の世界』のライナーノーツには、ハッキリと『歌唱は拙劣』と書かれてあります。

『拙劣』とは「へたで、おとっているようす」(三省堂 現代新国語辞典より)の事。

 

事実、私も確かにそう思っていましたし、『倒錯の世界』を聴いた後もその気持ちは変わりませんでした。

 

今まで彼の名作、名曲と言われる作品をじっくり聴く機会がなかった私ですが、たかだかアルバム2枚の話で留まってしまい、ワタシ的には「残念な部類のアーティスト」に分類していました。

 

 

 

しかし60歳を過ぎたある日、

何故か「アル・クーパー」の声が妙に懐かしくなり、その歌声を聴きたくなりました。

 

そしてついに、19曲入りのベスト盤を買ってしまったのです。

『倒錯の世界』から約40年後の事でした。

 

タイトルは「FREE SOUL the classic of AL KOOPER」です。

 

このベスト盤には、インストロメンタル、ソウル、ファンキー、ディスコ、ゴスペルなど様々な要素が入ったナンバーや、傑作アルバム「赤心の歌」から名曲中の名曲「JOLIE」、もちろん思い出の「ミッシング・ユー」も収録されています。とりあえず、イイとこ取りの有難いアルバム、聴き応えは十分でした。

 

彼はシンガー・ソングライターとして、アレンジャーとして、クリエイターとして、今世紀稀に見る『天才』でした。

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あの頼りない歌声は

すでに上手い下手を超越したもの

『味』なのです。

 

それは聴く者に

技巧と感動は必ずしも一致しない

時として、拙劣は技巧を上回る

と再認識させます。

 

 

彼の「歌声」心を伝える『最高の楽器』なのかも知れません。

 

アル・クーパー」、今では最も好きなアーティストの1人

と言えるかもしれません。

 

 

それでは、今日の話はこの辺でお開きという事で…

 

 

 

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※伊勢太郎の父はかく語りきシリーズは、不定期の投稿となります。